0か100を生きるためのバーベル戦略

バーベル戦略とは、リスクの両極端を組み合わせ、中程度のリスクを避ける投資戦略のことである。 低リスクの作戦をとる一方で、同時に高リスクの作戦をとる。たとえば、低リスクを90%を、高リスクを10%をポートフォリオとして組み合わせる。 リスク評価の精度が信頼できない環境で効果的だとされている。 参考

タレブの反脆弱性という本に出てくるアイデアはどれも面白い。その中でも、僕が気に入っているのは、バーベル戦略と呼ばれる考え方で、 日常的によく使っている。

元々投資のコンセプトではあるけど、投資の分野だけでなく日常の物事にも適用できる。生き方を考える上でもかなり示唆があると感じることが多いので、個人的なメモをまとめてここに書いておく。

バーベル戦略

バーベル戦略は、低リスクと高リスクの両極端を組み合わせる投資戦略である。中程度のリスクをとるのは避ける。
たとえば、株式投資であれば、資産の90%を国債(低リスク)に配分しつつ、10%でベンチャー(高リスク)に配分する*1のが、バーベル戦略の1つだと言える。

こうすることで、資産の全体を比較的安心安全に保ちつつ、高リスクによるリターンを同時に狙うことができる。90%を安全な場所に置いているので、予期しないイベントが発生しても90%は比較的確実性が高い状態で保護されると言える。

バーベル戦略は、一方では安全策をとり、もう一方では大胆にリスクをとる戦略、と考えると覚えやすい。

名前の由来

なぜバーベル戦略という名前なのか? 図にすると両極端に重りがあるバーベルのように見えるのが由来。

なぜ中程度のリスクを避けるのか?

人間のリスク評価は間違ってることが度々あるからだ。リスク評価の精度が信頼できない場合がある。

たとえば、サブプライムローン証券化した金融商品は良いリスクリターンのバランスを持っているとされ、高い格付けを与えられていた。実際には評価よりもリスクが高く金融危機を引き起こす要因になった。

リスク評価の精度が信頼できないとき、どうすればよいか?バーベル戦略はリスクの両極端に注目する。

超低リスクの物事は実際にも超低リスクである。超高リスクの物事は実際にも超高リスクである。中程度のリスクよりもリスク評価の精度が比較的高いと言える。

リスク評価の精度が信頼できる両極端のみを選び、中程度のリスクは選ばない。

「知識、時間、計算リソースが限られた環境ではリスク評価自体が信頼できない」とタレブは言っている。

バーベル戦略の日常への適用

バーベル戦略は、一方では安全策をとり、もう一方では大胆にリスクをとる戦略、ということになる。
この意味でのバーベル戦略は、人生での他の物事にも適用することができる。

僕が高校・大学時代に試験を突破するためにとっていた戦略を例に説明をする。(当時はバーベル戦略を知らなかったが)

毎日のようにコーヒーを飲む代わりに、普段はコーヒーをまったく飲まず、試験直前にだけ必要なだけコーヒーを飲みまくる戦略である。 カフェインの効果で、試験時間に集中力・計算能力を劇的に増加させることで試験を突破するのに役に立った。これをカフェインバーベル戦略と呼んでみたい。

バーベル戦略を作る

問題にバーベル戦略を適用するためには以下のようなプロセスを辿ると考えやすい。

まず、リスクを分析する

  • 低リスク(低リターン): コーヒーを飲まない
  • 中リスク(中リターン): コーヒーを1杯飲む
  • 高リスク(高リターン): コーヒーを好きなだけ飲む

そして、低リスクを90%、高リスクを10%となるようにリソースを配分して組み合わせる(この場合はリソースは時間だと言える)

  • 安全策: 普段は、コーヒーをまったく飲まない
  • 大胆策: 試験前、コーヒーを好きなだけ飲む

このように両極端のシンプルな組み合わせからバーベル戦略は構成できる。

この場合、なぜ中リスクを選ぶべきでないか?を考えてみると、以下のような理由がある。

  • 毎日カフェインを摂取するのは、実はカフェイン依存症などの意識されにくいリスクがある
  • 毎日の量を増やすとカフェインによるリターン(効果)は落ちる

注意点: 破滅を避ける

大胆にリスクをとるが、たとえ失敗しても破滅にはならないようにする。
たとえば、以下のような例は、大胆策でとるリスクが高すぎるため破滅する。

例:

  • 安全策: 普段はリモートワークで家から出ない
  • 大胆策: たまに深夜の時速200kmで首都高速道路をルーレット走行をする → 破滅

バーベル戦略の例

思いつく限りのバーベル戦略の例を並べる。個人的に日常的に活用しているものもあれば、読んだだけで一切実践してないものもある。

  • 毎朝コーヒーを飲むのをやめ、試験の前に好きなだけカフェインを摂取する
  • 普段は運動せず、週2回だけジムで短時間で高強度のトレーニングをやる
  • 気楽な公務員として勤めつつ、空いた時間で好きなだけ研究をする (アインシュタイン)
  • 週末は出かけず家に引きこもり、何ヶ月かに1回海外旅行に出かける
  • 普段はゆっくりとした生活を送り、たまに山手線一周を歩くようなエクストリームな活動をする
  • 公務員と結婚しつつ、たまにバンドマンと浮気する (反脆弱性)
  • 大学で最低限の単位をとりつつ、ベンチャーを起業する
  • 毎日怠惰に Tinder をスワイプする代わりに、週末に腱鞘炎になるまでスワイプし続け、光の速さで返信する (参考)
  • 週1日だけオフィスに出社する、週4日はリモート勤務にし会議を入れずに仕事に集中する。
  • 朝集中して小説を書く、夕方からは好きな翻訳をして過ごす (村上春樹の生活)
  • 朝8時~12時の4時間でその日のすべての仕事を集中して終わらせる、そのあとは技術調査をしたりドキュメントを書いたり好きなことをして過ごす
  • 週6日働き、週1日なにもしない (ユダヤ教の安息日)

バーベル戦略と僕

無意識的にバーベル戦略を日常に適用している人もいると思う。僕もバーベル的なやり方で人生で出くわした問題を攻略してきた。*2

バーベル戦略の大きなメリットの1つは、人生の退屈を破壊するのに役立つ、ということにある。毎日同量の物事をやっていると、日常は平坦になっていき、どんどん退屈になっていく。こういうとき、意識的にバーベル戦略に切り替えると、退屈を粉砕し人生をより刺激的に保つことができる。

一方で、バーベル戦略を適用できてない事柄もある。毎日継続的な練習をするのが効果的な物事はある。 たとえば、外国語学習では毎日継続的な訓練が効果的とされている。月に1回8時間集中的に英単語を復習する戦略はあまり有効ではない。
この場合は、習慣化する戦略が効果的でこのことは過去の英語学習についての記事にも書いた。

脳を長期記憶システムは頻繁な刺激を情報として受け取ることで、知識を長期化する仕組みになっていることが一つの理由としてあると思う。

参考

終わりに、メモする上で強く参考にした本や記事を紹介しておく。

脆弱性

まず、当然ながら反脆弱性。バーベル戦略はタレブの他の著作でも繰り返し言及されている。

Examples of barbell strategies

英語記事ではあるけど、バーベル戦略を日常に適用するアイデアが多数紹介されていて面白い。

Examples of barbell strategies - by Dwarkesh Patel

暇と退屈の倫理学

直接は関係しないが、これを書いていて思い出したので書いておく。 人生は退屈に始まり退屈に終わる。暇と退屈の倫理学では、退屈の問題を分析するのに役立つ考え方が説明されている。

*1:ベンチャー1社でなく何社にも投資してVC的なポートフォリオを組む

*2:うまくいったことも、とてつもない間違いをしたこともあった