エチオピアの街を歩く、エイリアンと覚醒植物
10月末、エチオピア アディスアベバの空港に到着した。はじめてのアフリカ大陸。
アディスアベバの国際空港は大きく、ほとんどがエチオピア航空の航空機だった。同一の航空会社が空港をほぼ専有しているからか、乗り換えなどの仕組みも効率的に運営されているようだった。
アライバルビザを80ドルで買って*1無事に入国できた。空港タクシーの客引きを無視して、タクシーアプリ*2でホテルまで移動する。
エイリアンになる
エチオピアの人口は約1億2000万人で、だいたい日本と同じくらい。その中で、アディスアベバは首都で約400万の人口がいる。
ホテルから出て気づいたのは、やたらと現地人に話しかけられることだった。歩いていると、若者に「チャイナ! アリババ!」と話しかけられる。最初は、ジャパニーズだよ、と言い返してきたが、途中であまりに数が多くて面倒になって適当に流すようになった。
道では黒人以外をほとんど見ない。僕だけ周りで肌の色が違うので、やたらと視線を感じる。ホテルの中でも白人やアジア人はかなり少数だった。
道を歩いていると、別の惑星から来たエイリアンのような気持ちになる。実際、遠い外国から来るとエイリアンだと言えるわけだけど、ここまで周りの雰囲気が違うととても意識してしまう。
今回の旅では、最後までエイリアンの気分で旅をすることになった。一度エイリアンだと思うと、何が起こっても何を言われても楽になる。
路上には若者の男が多く、やたらとフレンドリーだ。とにかくなんやかんや話しかけてくる。なぜかグータッチを求めてきたりする。たまにチャイナじゃなくて「ジャパン!」と声をかけられると嬉しくなってグータッチしてしまう。
メルカートの混沌
東アフリカ最大の市場と言われるメルカートを見に行く。
タクシーを降りた瞬間に、とんでもないところに来てしまったなと思った。「ここは人が多いから気をつけるんだぜ」とタクシーの運転手に言われた意味がわかった。人でごった返していて、縦横無尽に人間が行き来している。エチオピア人の海流の中に巻き込まれた気分。熱量が凄まじい。
服を腕に抱えて売る男、商品を頭の上に乗せて運ぶ人、荷台一杯にモノを乗せられたトラック、そして資材を運ぶロバ。
人口密度が高いからその分、現地人に絡まれる頻度も増えて、30秒に1回くらい チャイナ! と声をかけられる。チャイナチャイナ毎回言われるのはちょっとむかつくような気がしてたけど、まぁたとえば原宿でパンダが歩いてたら誰だって「パンダ!」って言うだろうし仕方ない気もしてきた。
どれだけでも店があって、あらゆるモノが売っているけど、観光客が特に買いたくなるようなものはなかった。
1人で歩いていたけど、観光客がフラフラ見に来る場所ではなさそうだとは思った。とにかく人が多いし、隙を見せれば財布を抜き取られそうな雰囲気はあった。怪しい店に連れて行こうとするフレンドリーなおっさんがRPGのモンスターのように無数に出現するし、ガン無視パワーが必要になる。
渋滞がひどくてまともにタクシーアプリが使えず、とてつもなくボロいタクシーを捕まえて帰る。
快適な気候
アフリカと聞くとなんとなく暑いイメージがあるけど、とても涼しくて快適。標高2000m にあって、気候が安定している。
年中快適な気候で気温が安定していて、日本で言えば夏の軽井沢みたいな気候なのかもしれない。Weatherspark で見てみても、年中快適と出てくる。天国なのかもしれない。
涼しくて、綺麗で広い歩道が多い。散歩をするのがとても楽しい。
路上ではほんとに色々なものが売っている。教会の近くでは、女性が野菜や服を売っていた。
路上には靴磨き屋さんが多い。小学生くらいの子供も靴磨きをやっていて、「ウォッシュウォッシュ?」と言って呼びかけてくる。現地の人達も靴磨きをよく利用するみたいで、おじさん達が靴を磨いてもらっている。
本屋も路上にある。歩道に平積みされている。若者が英語のビジネス書ベストセラーを売っていて「リッチ・ダッド!アトミック・ハビッツ!」と叫んで呼びかけてくる。本のタイトルを本屋に叫ばれるのは新鮮な気分。
マキアートに感動する
エチオピアに来たかったのは、本物のエチオピアのコーヒーを飲みたかったからだった。コーヒーが好きでよく飲むのだけど、エチオピアのコーヒー豆は特にフルーティーな味が特徴的でとても好き。エチオピアはコーヒーの発祥地でもある。
Tomoca Coffee という評判の良いカフェにホテルから歩いていく。内装が洗練された雰囲気で、オールスタンディング形式になっていて、店内は賑わっている。
看板メニューのマキアートを頼む。めちゃめちゃ美味しい。果汁のようなマイルドな酸味で絶妙なバランスがとれている。感動して毎日通った。自分用の土産にコーヒー豆も買った。
Tomoca Coffee 以外のカフェも何軒か行ってみたが、まぁかなり普通な感じではあった。経済水準的にスペシャルティコーヒーを出すお店が発展する土壌がまだないのかもしれない。Tomoca Coffee だけが別格で、素晴らしい。
コーヒーセレモニーというエチオピア伝統スタイルのコーヒー屋があらゆる場所にあった。ストリートやショッピングモールの中、空港にもある。日本の茶道のコーヒー版のような感じらしく、神棚のような場所に祀るようにしてカップが並べられている。
ショッピングモールのなかで休憩としてコーヒーを飲む。神棚を見ながらコーヒーを飲んでいると、なんだか心が清められるような体験。
フルーツ天国
街にはフルーツジュースバーが多い。フルーツジュースだけじゃなくて、サラダを頼んでお昼ごはんを食べたりすることもできる。
エチオピアにはエチオピア正教の習慣で週2回肉を食べない。肉を食べない日があるから、野菜やフルーツを食べる食文化が発達している。
キオスク的なお店の前にバナナがワサワサ吊られている様子が見れたり、フルーツジュースバーの前に色彩豊かなフルーツが綺麗に並べられている様子が見れたりして、見てるだけで楽しい気持ちになる。
ある時歩き疲れて、フルーツジュースバーに入って、アボカドジュースを頼んで休憩した。ジュースバーのエチオピアギャル達がポーズを決めてくれる。
お昼ごはんを食べに入ったときは、隣の席のクールガイが「ここのスペシャルサラダはめちゃめちゃ美味いぜ」と教えてくれて、同じものを頼んだ。
フルーツサラダとライスを合わせて食べる。サラダにたくさん果物が入っててすごく贅沢な気分になる。アボカドジュースと一緒に食べてるとおなかが膨れて身動きが取れなくなったけど、美味しかった。
ジュースバーにハマって、疲れるたびにジュースを飲みに入っていた。迷ったら「スペシャル」と頼むといいらしい。美味しそうなストロベリースムージーが出てくる。
リモートワーク事情
1日仕事をしなければいけない日があって、ホテルで仕事をしていた。結論から言うと、この街はまったくリモートワークには向かない。
ネットが遅い。そして、停電がある。
そこそこの良いホテルでもネットが遅くて、ビデオ通話をするのはかなり厳しいだろうなと思った。カフェがあればいいけど、フリー Wi-Fi があるカフェが少ないようで、作業ができる感じの場所がなかった。エリアによるのかもしれない。
ときどき瞬間的に停電も起こる。そのたびに充電マークがピコピコ変わってちょっと気が散ってしまう。
気候が涼しくて、フルーツが美味しいので、Wi-Fi さえ速ければリモートワーク天国なのにな、と思う。
覚醒植物を買う
歩いていると、草の葉っぱをちぎりながらムシャムシャ食べている人達をときどき見る。傍から見ると野良猫が雑草を噛んでいるようにも見える。
噂に聞く覚醒植物カートだ。高野秀行の『謎の独立国家ソマリランド』を読んでいて、僕ははじめてカートのことを知ったのだけど、このように書かれている。
今カートはエチオピア国内で大流行し、社会問題になっているほどだが、輸出高の伸びもすごく、今や、エチオピアの代名詞であるコーヒーを凌ぐほどだという。
体の芯が熱くなり、意識がすっと上に持ち上がるような感じがする。ソマリ人はこの多幸感を「メルカン」と呼ぶ。
酒みたいだが、酒とちがうのはカートでは意識の明晰さが失われない点だ。車の運転手が眠気覚ましと集中力持続に使うことからもわかるだろう。そして記憶を失うこともない。
外務省の公式基礎データにも 「主要貿易品目(1)輸出 コーヒー、金、切り花、チャット」と書かれてて、チャットというのがカートで、カートはエチオピアの名産品だ。
事前にネットの情報を見ていると、あらゆる場所でカートで売られているようなイメージがあったけど、意外にも店が見つからなかったし、道の脇でひっそりと噛んでいる人が多かった。
3日間毎日歩き続けて、堂々と売っている店を1軒だけ見つけて、そこで買ってみた。1束200ブル(約540円)。少しぼったくられている可能性はある。黒いビニール袋でもらった。むき出しの状態で持ち運ぶのは実は良くないのかもしれない。
ホテルに帰って試してみる。ホテルの入口で、手荷物検査があって少し怪しまれた。
葉っぱをちぎって片方の奥歯でムシャムシャ噛む。30分から1時間噛み続けないと、効果を感じないらしいので、ひたすら噛み続ける。味は、苦いハーブを噛んでる感じ。木の葉っぱをモグモグするキリンの気持ちになって噛み続ける。
口の中が噛み砕いた草で緑色になる。初日は結局はあまり効かなかった。じわじわと身体の芯から目覚めていく感覚はあったが、カフェインよりも効き目はずっと弱い。
エチオピア最終日、せっかくなので余ったカートを消費するため、朝5時に起きて葉っぱを噛み始める。集中して噛み続ける。ホテルで時間ギリギリまで草を噛んで、空港に向かう。
カートのその感覚がやってきたのは、空港のセキュリティチェックに進む赤いカーペットを歩いているときだった。背中の内側から熱くなるような高揚感を少しずつ感じる。強烈ってほどではないけど、酒でもコーヒーでもない普段とは違う感覚に楽しくなる。
表情がおかしかったのか、セキュリティチェックの若者に何かしら質問される。何言ってるのかわからなくてびっくりしてたら、”Do you speak English?” と聞かれる。”Yes, I speak English.” と答えて通してもらう。
エイリアン、次の街へ
アディスアベバから飛行機で、次の目的地 南アフリカ ケープタウンに向かう。
旅先で異世界に来たような感覚になったのは久しぶりだった。マキアートの味やフルーツサラダが忘れられない。また来ようと思う。
エチオピア アディスアベバ、気候は大体軽井沢で、街並みは東南アジアの地方都市感があって、意外に落ち着く pic.twitter.com/j6QSQbYR80
— uiu (@uiu______) October 26, 2023