特に理由らしい理由もなく始める旅は、散歩の延長線上にあるような気がする。
ラトビアにはそれまで興味を特に持ったことがなかった。行くまでは高校地理の授業的なキーワードを知っているだけだった。いわゆるバルト三国の一角で、北からカタカナ順のエストニア・ラトビア・リトアニア、三国の中では真ん中にある。地図の中では北欧世界とバルト海を共有していて、陸側の国境でロシア・ベラルーシと接している。
今回の旅はエストニアが目的地で、そのついでに最初にラトビアに寄ることにしたのだった。エストニアにも大した用事はないのだけど、会社の知り合いがエストニアにいるらしいのでちょっと見に行くことにした。
自分の気持ちからは結局なかなか行けない場所がある。そういう場所に誰かがいるとかチャンスがあれば多少無理してもできるだけ行くようにしている。
ラトビア・リガ
5月の土曜夕方に住んでいるロンドンを出て、LCC の RyanAir に乗ってラトビアの首都リガに向かう。
最初 RyanAir 乗ったときはサービスの質素さにびっくりしたけど、今では慣れて毎月のように利用している。LCC空港のオペレーションが効率的で、とにかく安い。今回のチケットは片道50ポンド程度(約1万円)だけど、もっと安い時もある。
リガの街に着いた頃には夜遅くなっていた。宿に向かって川沿いを歩いていると金色の月が見えた。人生で一番明るい月だと言ってもいいくらい丸くて明るくて大きかった。
0時を過ぎていてどの店も空いていないので、最寄りのファストフード店に入る。フィンランド発祥のファストフードチェーンでヘスバーガーと言う名前の店。
味わいとしては比較的優しい印象で、ソースの味がちゃんと甘くて美味しい。現地でもなかなか人気らしく、深夜だが若者がそれなりの数いる。1食7.8ユーロ(約1400円)でヨーロッパにしては若干お手頃な感じがある。宿も1泊9000円くらいで安めだった。
ヘスバーガー
5月ではあるけど、ダウンがほしくなるくらいには寒い。夜の街をぶらついてから、軽くバーでビールを飲んでから宿に帰る。
2日目は街歩きをする。旧市街は綺麗で、観光地にしては人も多くはなくて、とても歩いていて気分が良い。
ほとんど事前知識なしでラトビアに来たのだけど、まぁ何も困ることはなかった。英語は通じるし、なんでもオンラインに書いてあるし、ユーロ圏でキャッシュレスが進んでいるから、ウェブサーフィンするのと同じくらい楽に旅ができる。



街の一部の雰囲気がベルギーのブルージュに似ているなと思って、調べてみると歴史的には両方ともハンザ同盟の都市だからそれはそうだった。バルト海貿易をしていた同盟都市同士で、当時の建築思想が共有されている。

LIDOというカフェテリア系チェーン店でお昼ごはんを食べる。大学の食堂と同じ形式で、なんとなく懐かしさを感じる。好きなラトビア伝統料理をとって食べることができる。マッシュポテトが甘々滑らかで美味しい。


ロシアとの戦争の事情で、至る所にウクライナ旗、ラトビア旗、EU旗が立っている。他人事ではない緊張感が伝わってくる。特にリガはロシア系住民が40%近くの人口を占めていて、人々もロシア語を話し、文化的にも近いという事情があるらしい。

特にやることもなくなったので、バーに行き一人でビールを飲む。ラトビア人の20代前半の女性のグループが隣に座っていたのだけど、全員タバコを吸いながらビールを飲んでいる。この辺りの旧ソ連の影響下にあった地域は歴史的な経緯で、女性の喫煙率が高いらしい。
ラトビアのことはこれまであまり知らなかったけど、実際来て歩いてみるとすぐに好きになった。何も考えずに来てみると、意外と来て良かったなと思う街は多い。自分の想像力が不足しているだけで、世界にはもっと知らない魅力があるのだろうなと思う。
リガでは街をただ歩いて一日時間を過ごしただけだったけど、とても充実した気分になれた。、公園でゆっくりしたり、カフェでコーヒーを飲んだりする時間が楽しかった。また来たい。
エストニア・タリン
リガからバスに乗ってタリンに移動する。移動時間は4時間半だったけど、道がほぼ一本で快適だった。リガから郊外に出てからの途中の景色は、森と湖くらいしか見えなかった。
エストニア・タリンに着く。リガと比べると、標識や看板など街の全体から北欧デザインみを感じる。エストニアは、文化的にはフィンランドなど北欧に近いらしい。丸くて優しい空気感を感じる。
旧市街に行く。ぽってりとしたお城の雰囲気がかわいい。広場があるのは他の街とあまり変わらないけど、建物の色遣いがポップでかわいい感じがする。



エストニアは電子国家としてITが進んでいることで有名で、前から気になってはいた。昔お世話になっていたSkypeは本社がエストニアだったし、ヨーロッパでよく使うタクシーアプリのBoltもエストニア。人口140万人ほどしかいない小さい国から世界で戦っていてすごい。
ロンドンや他の大きな都市と比べると、街にあまり人がいないのを感じる。それと、おばあさんが1人で歩いてるのをよく見る。この国では、男は8年か9年早く死ぬ。ラトビアや近隣国でもそうだけど、寂しさを感じる。
ロシア大使館を見に行く。めちゃめちゃにされている。ロシアと国境を接していて、東に行くとすぐにロシアに着くこともあり、緊張感が強い。

映画TENETのロケ地になったと言われる旧ソ連時代のオペラホールを見に行く。完全に廃墟でグラフィティだらけになっていて、映画で見た原型はとどめていない。街の中心部は、北欧の洗練されたデザインでモダンな印象がある一方で、ちょっと人気のない場所に行くとグラフィティだらけになるところに旧ソ連みを感じる。

旅の終わり
ラトビアもエストニアもどちらも素敵な国で居心地が良かった。
ただ、街で過ごしているだけでも、どこか暗い影のようなものは感じた。ヨーロッパの中でも人口減が進んでいる地域で、社会福祉制度は充実しているが出生率がかなり低い。国としても人口100万から200万人程度で小さい。言語や文化が失われることに対して危機感があるのを感じた。
ラトビアやエストニアに限った問題ではなくて、人口減は日本を含めて世界のどこでも起こっていることで、どの国も言葉も文化もやがては失われいく道にあるのかもしれない。だからといって、僕がどうするという話でもないんだけど、しんみりとした気分にはなる。