しばらくバンコクにいた

3月、タイのバンコクにいた。

特にこれといった用事はなく、ほぼ丸一ヶ月間いて普段日本にいるときと同じようにリモートで仕事をして生活していた。

バンコクに行くきっかけはいくつかあるけど、ちょっとした長期滞在をしたくなったのは東京での日常生活が退屈で頭が狂いそうになっていたからだった。

京都から東京に引っ越して5年以上は経つ。幸いにも仕事は変化が多い環境で飽きないけど、それでも生活が単調すぎてなんというか停滞感を感じていた。

その解決策というか救いになるかはわからないけど、日本の冬の寒さに嫌気が刺したこともあって、実験的に海外で1ヶ月くらい過ごしてみることにしたのだった。

海外滞在とリモートワーク

どこかに住んでみるとして、条件として思い浮かんだのは以下だった。

  1. 都市として活気がある
  2. 時差が少ない
  3. インターネットが速く安定している

1番目は個人的な趣味で、残りの2つは日本の会社にリモートで働く前提なので必要だった。

バンコクを選んだのは、都市として活気があり一番イケてる、と感じたことが大きい。

海外旅行が好きなので色々と見て回ったのだけど、結局大都市は楽しい。その中でもバンコクは発展していて、コンテンツにも深さがあり、飽きないなという感覚があった。

時差は2時間でほぼ支障がないし、バンコクの街中だとインターネットは安定している。携帯回線も5Gが通っている。

30日以内であればビザなしで滞在できる手軽さもあった。そういうわけで、逃げるようにしてタイに飛んだのだった。

バンコクという都市にいて、印象に残ったことを書きたいと思う。頭の中に焼き付いている景色のことを考えると、昼と夜両方の映像を同時に思い出す。

光と緑の都市

バンコクに来て一番驚いたのが、緑が豊富でしかも生き生きとしていることだった。道を歩いていると、熱帯植物が自由に葉を伸ばしていて強い生命力を感じる。

緑の多さを見ていると、軽井沢を思い出す。暑い軽井沢。僕がいた3月は暑季でまだあまり雨が降らなくて、昼は日差しが強くてとにかく明るい。

タイというと屋台のイメージが強いけど、バンコクは洗練された都会の要素が多い。

特にカフェが気に入って、狂ったようにバイクタクシーで毎日カフェに通っていた。

滞在期間中ほぼ毎日最低1つ以上新しいカフェに行っていたけど、それでも候補が尽きないくらいカフェの数が多い。

滞在していたサービスアパートから、どこもバイクタクシーで10分以内で行けるくらいの手軽さ。日本では普段土日も家から出ないけど、バイクタクシーがカフェの前まで連れてってくれるので毎日どこでも行けた。

カフェの窓から光と緑を眺めつつ、作業をするのが気に入っていた。

地域にもよるけど、比較的ゆとりのある広さのカフェが多くて、居心地が良い。

どのカフェも Wi-Fi と電源があって、しかもインターネットがなぜかやたらと速い。オンライン会議が多い仕事だけど、ラグは特に感じなかった。Wi-Fiが遅くても携帯の5G回線で十分にスピードが出るから、インターネット接続に関しては日本よりも苦労が少なかった。

Patom Organic Living はまるで熱帯植物の森のなかにガラスの立方体があるような空間で好きだったし、Glig cafe は白を基調とした homey なスタイルのカフェで、長居していて心地良かった。

食べ物も美味しい。辛いものが苦手だけど、問題を感じないくらいバリエーションがたくさんある。

色々とタイ料理は試したけど、一番気に入ったのはクイッティアオ。タイ風のラーメンだといっていい。スープのなかに米の麺と肉が入っている。屋台で食べるような大衆的な料理なので安い。大体80バーツ(約320円)くらい。

部屋で作業するのに飽きたら、Grabアプリでバイクタクシーを呼んで、クイッティアオ屋に行きヌードルを吸い、またバイクタクシーで移動してカフェで作業するような毎日だった。

暑すぎて部屋から出るのもだるいときは、Grab か foodpanda でデリバリーを頼んだ。配達料も30バーツ程度(約120円)。

サービスアパートの部屋は冷房が効いているし、毎日清掃もしてくれるし、ごはんもデリバリーで届く。あまりに快適すぎるので、バンコクに沈没してしまって、ほぼ動くことができなかった。

サイバーパンク・シティ

夜のバンコクは、サイバーパンクSF小説ディストピア都市に似ている。

思いつくものは何だって金で買える。有名なのは買春だけど、男が女を買うことは当然、女が男を買うことだってできる。実質合法化した大麻は、大通り沿いやどこにでもあるその辺のディスペンサリーで買えるし、店舗の数は普通のドラッグストアよりも多いと思う。300万円あれば男性が女性になることもできる。

バイクタクシーの運転手はスマホからの指示に従って休むことなく縦横無尽に走り回る。交通ルールはあるのかないのかよくわからない。A地点からB地点にできるだけ速く移動するのが唯一のルールなのかもしれない。

そんな夜の街を歩くのが好きだった。昼は暑くて日差しは凶暴だから、やや涼しくなる夜にしか散歩ができない。日が落ちて暗くなると、仕事を終えて、近くのお店にガイヤーンやカオソーイを食べに行った。暑くてイヤな日にはビールを頼んで、薄い味のビールを氷に注いでさらに薄くて冷たい味にして飲んでいた。

バンコクには有名なナイトクラブがいくつかあるが、とあるクラブは異様だった。

メインの客層はタイ人だが、なぜか韓国人の男が異様に多い。中国人や日本人などのアジア系や白人はマイノリティだ。黒や褐色系の肌の色の人は特に少なく、Google Maps のレビューには、レイシスト・クラブだ、と書かれている。

K-POPブームで最大の恩恵を受けているのは歌って踊れるBTSではなく、歌うことも踊ることもできない金を稼ぐことにしか取り柄のない一介の韓国人の男だ。

韓国系の男がタイ人の女の子を持ち帰るための施設というような側面があるらしい。彼らはモンクレールだかなんだかのTシャツを着て、VIP席に陣取って山ほどのボトルの酒を飲んでいる。

「異様だよな、なんでこんなに韓国人男がいるんだよ」と話しかけてきた韓国人の青年は言っていた。カナダ・トロント在住で旅行でバンコクに来ていて、前の彼女が日本人だったから日本人が好きらしい。

ナイトクラブが立ち並ぶ通りの名前は、ロイヤル・シティ・アベニューと言う。”王”の名前が付いた通りで爆音パーティーが行われているのは不思議な感じがするけど、そういう寛容さを含めてタイらしいのかもしれない。国王は1年の大半を国外で20人の美女とともに悠々と過ごしているらしい。政治では、クーデター以降、軍事政権が続いている。

深夜2時、バイクタクシーに乗ってホテルに戻る途中、そんなことを考えていた。

終わり

バンコクで1ヶ月過ごした感想を考えると、光と闇の両方を思い出す。

1ヶ月の間、まったくといって退屈が来ることがなかったし、とても過ごしやすかった。

都会の洗練とローカルが融合しているのが好きだった。空調の効いたカフェのゆったりとした椅子も好きだし、路上に置かれた屋台のプラスティック椅子も好きだった。

もちろんすべてが良いわけじゃなくて、水道水は飲めないし、渋滞と大気汚染はひどい。都心で快適に過ごそうと思うなら、物価も今の円安の状況だと日本の地方都市とそう変わらない。

けど、そんなことは気にもならないくらい、昼の美しさと夜の楽しさの魅力がある。また近いうちに行くことになると思う。